「春が来ない人への、ワンポイントアドバイス」

( 不登校専門コーチ はらちゃん …… 山田組準会員 ) 物事や他人に対して「よい」「わるい」のジャッジをせず、起きた事実と、それに対するあなたの感情を客観的にみることができたとき、心の雪解けは近いかもしれません。 ◇ 不登校専門コーチ はらちゃん で検索 ◇

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五 天使     高平 九

 息を吹きかけると悴(かじか)んだ指が一瞬自由になる。その間(ま)を逃さないように右肘を左の掌で支えて筆を顔の上に走らせる。鏡の中の眉上から目尻にかけ、白いドーランの縁に青く太い線が引かれた。右は完璧に引けた。難しいのは顔の左側だ。背筋を伸ばして冷えた大気を胸一杯に吸い込んだ。冬の空はどんよりと曇っている。まるで絵筆を洗った水の底にいるようだ。その濁った水をかき回すように望月誠司は激しく咳き込んだ。  暴れる胸を押さえながら公園のなかを見渡した。芝生の上を風が過ぎた。さっきまでそこでバドミントンに興じていた親子連れも風が強くなったせいか、もういない。茶褐色にくすんだ木々が精気のない葉をぶらさげているだけだ。こんな空虚な公園で大道芸なんて馬鹿げている。少し笑った。目尻を拭うと手の甲に白いドーランがついた。  ベンチの上に置いた鏡に白い顔が映っていた。クラウンホワイトという道化師専用のドーランを塗っていた。眉の上から目にかけてと頬骨から顎にかけて顔のほとんどを白塗りするのが「オーギュスト」と呼ばれる道化のメイクだった。三十数年前、初めて道化のメイクをしたとき、有名なオーギュストの真似をした。そのときから彼のメイクは変わっていない。ただ、白く塗っていないこめかみのあたりにシミが目立つようになると肌色のドウランを塗るようにしていた。もちろん老いを隠すためだ。  やっと胸が静まると顔の左側のメイクに取り組んだ。筆を左手に持ちかえ、肘を右手で支えた。もう一度軽く息を吸って咳き込まないことを祈った。手がわ…

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四 はつゆき     三角重雄

   はじまりは突然にー初人(はつと)  次の瞬間、地震だと気づくや、死ぬと思った。橋の真ん中で揺れを感じた僕は、重心を低くした。しばらくの横揺れ。いきなり縦に波打ち始めた橋。母に電話をしようと携帯をバッグから取りだした。ドガンという音。体が一瞬浮かび、転んだ。携帯は右手からこぼれて、欄干の格子の間から川へと落下した。  悲鳴が聞こえた。二メートルほど先、若い女の子が倒れている。僕の目の前に投げ出されて広がるバッグの中身、楽譜。彼女は縦揺れの地震に翻弄されつつ楽譜を死守している。  ひどい揺れはおさまった。だが、橋の上だ。 「怪我はないですか?」 「大丈夫です。譜面をありがとう」 「大事な譜面なんですね。橋の上は危ない」 それから僕らは橋を渡った。 「ものすごい地震でしたね」「はい」と言ったなり、娘は沈黙。 「あの、どちらまで?余震があるかも知れない。送りましょう」         つなぐ糸はひとつー優美(ゆみ)  あの人を思うと心は空に舞い上がり、その後、地に落ちる。私、変。たった一度会っただけの人なのに。  彼は私のライブハウスまで一緒に来てくれた。私の場所は崩れていた。世界が終わった。店長が呆然と瓦礫の山に立っていた。店長は私を認めると、表情を浮上させた。 「優美ちゃん、この若者は?」 「あっ、この人は…」 「本宮、初人です。さっきこの、…優美さんと、橋の上で。その時地震が」  その後、私は、楽譜の恩人と店長のために、アカペラで「アメージング・グ…

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三 進捗、どうですか     千秋明帆

「ぐあぁぁぁぁ~~~~~出てこねぇ~~! か、書っけないんじゃあぁぁ~~~~!」  声の限り叫び(発声したとは言っていない)パソコンの前からダッシュで逃走を決め込み布団へダイブをかまし、ごろんごろんと右へ左へもんどりうっても出てこないものは出ない。文字なんて一文字も、いや一画目からすでに迷子だ。縦か、横か、それが問題だ。いや待てローマ字変換だから斜めも入るやんけ。いやいや待て、手書きでないから打つが正しいので一画目は迷子にあらず、打ち込む指が迷子です。いやいや待て待て、そもそも何を書く? 書きたいものなど書きたいところから想像し妄想しお絵描きして場面を書いたら満足してしまったから文字に起こそうにも頭の中はスッカラカンなのだ。完全に絵描きの俺の満足が文字書きの私の心を殺してしまった…おいどんの語彙力は死んでしまった! 語彙力よ、死んでしまうとは何事だ! 蘇生させねば…蘇生は教会へ行くものだが、むしろ教会が来い! 動きとうない! 働きたくないでござる! もういやだ~~~頭の悪いネット小説みたいなことしか浮かばない~~~無駄に語尾伸ばしちゃう~~~! 無理無理のむ~~りぃい……。  体力も気力も、ついでに知力も尽き果てて、仰向けに寝転ぶ。うわぁ、そら、きれい…。天井だけど。蛍光灯だけど。現在夜中ですけど!  あぁ、そもそも、どうしてこうなったのだろうか。おかしい。いつも余裕入稿の先人たちを見習おうと、「いつも心に余裕入稿」の文字を付箋に書いて机に貼っておいたのに。今回こそはと、余裕だと思っていたの…

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二 #サンタを許すな     おがしん

 全国のサンタクロースを統率するため、今からちょうど百年前に発足したサンタ連合。しかし今、発足以来最大の危機がサンタ連合を襲っている。連合のトップである会長に、収賄の疑惑が浮上したのだ。子供に夢を与える存在として絶対的な地位を築き上げてきたサンタクロースだが、その地位は金で買ったものなのか…。 「こりゃひでえな。」 新聞から顔を上げ、先輩が独り言のようにつぶやいた。 「サンタクロースが金で地位を買っている、だってさ。ひどい言われようだ。」 「先輩、僕たちこれからどうなっちゃうんですかね?」 「知らねえよ。しっかし誰がリークしたのかねえ。」  行き場のない気持ちを抑えるように、僕はため息をついた。  父の後を追って僕がこの仕事に就いたのは昨年の話だ。サンタクロースという職業を全うする父の姿は、僕にとって憧れだった。クリスマス当日は毎年忙しい父が、「メリークリスマス。一日早いけど。」と言ってイブに渡してくれるプレゼントが、なんだか特別感があって、僕の誇りだった。ところが、そんなイブを翌日に控えた今日、事件が起きたのだ。 「僕、この仕事今年もやりたいです。」 「上の連中がどう判断するかね。今年は活動自粛じゃないか。」 疑惑が報じられた直後から、世間の声は冷たかった。「#サンタを許さない」がツイッターのトレンドに入っただけでなく、サンタがプレゼントを配ること自体が不謹慎だという声さえ上がっているのだ。 「子供たちが楽しみにしているのに、よくそんなこと言えますよね…。」 「まあでも煙…

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一 野生になれない僕たちは。   まめたろう

 その日は関東甲信越の初雪だった。絵に描いたようなフワフワの雪は拝んだことがなく、現実はシャーベット状の白い泥のようであった。校庭には不細工な雪だるまが幾つも並ぶ。はあ。溜息をつくと、僕の憂鬱は白い息となって宙へと舞ってゆく。このまま体内全ての空気を吐き出してしまえば、憂鬱は全てこの冬空に消え去ってくれるだろうか。そんな不毛な考えの沼地に足を取られながら、僕はいつもの場所へと向かってゆく。 ※※ 「雪遊びはしなくていいんですか?」いつもの場所にはいつもの君がいた。 「寒いのが苦手なんだ」 「へえ」 「おい、待て。何がおかしい」 「先輩。つくなら、もっとマシな嘘にしてください。限りある学校生活の中で有限な昼休みの時間をこんな空き教室で不毛に過ごすあたりから考えるに、ですね。友達が少ないのでしょ」 「それ、君にも言えるけどな」 「その通りですよ。私にとっても、先輩にとっても、お互いがお互いの唯一にして無二の話し相手。持ちつ持たれつ、相思相愛。一心同体の間柄。私と先輩は、さながら運命共同体なのです!」 悲しい事に、述べられた内容は全て事実である。そして、未だかつて運命という言葉がここまでロマンチックとかけ離れた使い方をされたことがあっただろうか。 「運命共同体というよりも、地獄に道連れだ!」 「まあ、その方が我々にはお似合いですかね」 すると、また君はゲラゲラと笑う。 ※ 話は春先にまで遡る。いつも通り、いつもの場所で、いつものように、昼休みを不毛に過ごしていた僕の元へ、「…

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第3号◇組員自己紹介(近況報告)◇

まめたろう … 嫌なことがあれば、音楽を流す。変なことを考えついてしまえば、ゲームをする。スマホやSNSといった逃げ道が増えたせいか、僕らが哲学をする時間は極端に少なくなったような気がします。だから、満員電車と、朝の通学路と、トンネルと、映画館でのCM、僕を孤独に向き合わせる時間と機会に感謝したいと思います。そして何より山田組文芸誌へ。いつもありがとうございます。 おがしん(新メンバー)…初参加のおがしんです!  普段はドラマ制作をしているのですが、脚本と小説の違いにずいぶん苦しめられました。 良い経験をさせていただき感謝です! 千秋明帆…悪いことはドミノ式、良いことは千葉の雪。最初、純粋な恋愛ものを書いていたのに…おかしいな、いつの間にかチラシの裏みたいなことになっていました。どうか遠目の薄目で読んでください。 三角重雄…今回は少し趣向を変えて。オリスティックを使いました。すぐ分かってしまいますね。 高平 九…これまで二つの同人誌に関わりしましたが、諸般の事情でいずれも二号までで終わっていました。ですから三号の発行は何より嬉しいことです。次は百号を目指しましょうね。  相談に猫も加わる炬燵かな 九

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黄昏れた人へのワンポイント・アドバイス

「黄昏れた人への、ワンポイントアドバイス」 (メンタルコーチ・はら慈妙子…山田組準組員) 「自分にないものを追い求めるのは苦しみがともないます。 まずはいま持っているもの、与えられているものに気づき、 感謝してみてくださいね。」 ◇ 「自然体コーチくみ」で検索 ◇

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四 黄昏を笑う

高平 九  病室の窓から見えるのは倉庫の屋根と高圧線の鉄塔ばかりだった。高圧線の彼方から人の声がした。 「海の見える部屋で終わりたかったなあ」  良子は心の奥でそう呟いた。でも、仕方ない。一人息子の俊太郎は市役所に勤めるしがない公務員だ。それに大学生の子どもが二人いる。今までだって毎月の仕送りや訪問看護の費用などで無理をさせている。これ以上は分不相応だ。そんなことは分かってる。でも……。 「海が見えればいいのに」  二月前に救急車で運ばれて以来、昼間はいつも同じ言葉が胸の奥から湧いてくる。  十年前、良子と夫は住み慣れた焼津から武蔵小金井にある良子の母親のアパートに越して来た。周囲には母親の介護のためと説明していたが、実は家業の電器店の経営が手に負えなくなったからだった。母親はその年九十九歳で亡くなった。夫が認知症を発症したのはその二年後だった。  一歳若い夫は「お母ちゃんが待ってるから帰る」と言って深夜に部屋を出て行くようになった。もちろん最初のうちは止めていた。だが力の強い夫を抑えることはできなかった。名札を持たせているので、きまって朝になると警察官に保護されて戻ってくる。そして夜に暴れたことなどすっかり忘れて警察官に愛想を言ったりしている。そんな夫が憎らしかった。やがて認知症が悪化した夫は入院し、そのまま老人施設に移った。良子は毎日バスで一時間かけて夫に会いに行った。良子が誰かも分からない。差し入れの甘い物にだけ反応する夫を良子は愛おしいと感じた。夫は五年前に死んだ。  …

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三 ロシュフォールの黄昏

三角重雄  目覚めると、黄昏が忍び込んでいた。  部屋の温度が下がっていることを、粟立つ肌が教える。彼方の海の匂いを風が運んでいる。窓を閉めようと、ソファから腰を浮かす。僅かに頭痛、何かを予感する。数歩歩く。振り返る。  そもそも何故、うっかりうたた寝を?窓を閉めながら、痛む頭で考える。彼は首をかしげ、ボトルからグラスにワインを注いで一口啜り、視線を彷徨わせる。  壁にトリオンファント号の写真、赤いハイビスカスのパレオ、浮世絵。飾り棚に水煙管、江戸切り子。彼はロフトを見上げる。  小一時間ほど前、彼は梯子をつたって、ロフトからリビングに降りてきた。そういえば、すでにあの時から始まっていた。気づきそうで気づかない何か。あの時も周囲を見回し、思案しつつ歩き回った挙げ句、ソファーに腰を下ろした。その時、ふと頭痛を感じたので、目を閉じたのだった。そしてそのまま… ジュリアンはもう一口ワインをあおると、再びソファーに身を沈める。煙草に手を伸ばし、やめる。咳払いをして深呼吸し、吐息。それから自分の脳裡にあるさっきの自分を、ロフトの下、梯子の前に置いてみる。       ※ 「ジュリアン」は、雲の先に頭を突っ込んでいた。といっても両の手は梯子にかかっていて、雲をつかんでいる訳ではない。見えた空、それは、見慣れたロフトの風景だ。  天井に接続した垂直の梯子につかまっていた彼は、床に足をかけて、小さな王国にその身を滑り込ませた。  天窓から射した日光が、埃を光りの粒子に変えていた。粒子は…

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二 またね、またあしたね

千秋明帆 「あきは、きらい」 隣から聞こえた声。ブランコが、揺れた。茜に、朱銀に燃える空へ向かう。長く伸びていた影法師は、一瞬、丸い塊となって、またすぐに溶けるようにして伸びていく。ゆあーん、ゆよーんと前後に揺れては秋風を纏って天を目指す。微かな夜の香りが渦を巻く。ぎいぎい耳障りな鎖の音が、二人だけの公園に響き渡っていた。 「嫌いなの?」  ブランコが、揺れる。影が纏う闇は、そのつま先を染め上げる。 「きらいだよ」 「そうなんだ」 周りはすっかり真赤に染まっていて、二人と言いつつもお互いの顔はよくわからない。ぎいぎい。ゆやゆよーん。ぎぎい。ゆやゆよーん。乗っているブランコと隣のそれは不協和音を奏でている。 もうすぐお家にかえらなくちゃいけないな、と思う。思うのに、ずっとブランコの鎖を握っている。赤錆びた鎖は、なんだか饐えた臭いがした。片手を放して見てみると、鈍い朱の色に汚れている。思わず、服に擦り付けた。ブランコに乗ったままだとうまくバランスが取れず、ぐにゃぐにゃと横に揺れだす。スピードが落ちて、二つの影から一つが離れた。 「どうしたの?」 燃える地平線を超え、空に届いたところから声がする。 「汚れちゃったから、拭いてた」 わずかに揺れるだけのところからでは聞き取れないかもしれないから、少し大きめに返す。答える間にも横を通り過ぎて、また通り過ぎる。 「そっかぁ。それじゃあ、べつのことしてあそぼうよ」 そう言って、軽やかに燃える空を飛んで、影を地に縫い付けた。すっと音…

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一 M〜愛すべき人がいたりして〜

まめたろう  分厚いアナログテレビが時折おぼろけな調子を見せながらも相撲中継を届けている。町内会のお知らせに、無名演歌歌手の達筆なサイン、何十年も前の剥がし忘れた映画ポスターと、一巻だけ抜け落ちたこち亀。チックタック、チックタック。振り子時計は秒針を刻む。だけども此処だけが時間に置いてゆかれたような空間だった。おまけに隣のレコード盤からは薄っすらとビートルズも聴こえる。  僕の他にも物好きはいる。新聞紙を遺憾と読む老人に、駄弁る中年、勤勉な学生。何の気なしに此処へ立ち寄り、何の気なしに珈琲を呑む。そうしては日々溜まりつつある何かを癒し、また日々へと帰って行く。喫茶店というのはそういう場所だ。  僕は文庫本を開く手を止め、押し花の栞を差し込む。そして再び珈琲を呑む。イタリア生まれのエスプレッソの語源は「特別に、あなただけに」。珈琲片手に小指を立て、窓辺を向く。 薄明の刻、黄昏時。目をうっすらさせると、夕焼けの光が目に染み込んでくる。足を組む。夕日に乾杯。僕は静かに、ただ静かにイタリア生まれのエスプレッソの悦に浸った。僕だけのエスプレッソだ。すると、どうだろう。目に入った光の粒子は気を遠くさせてゆく。  チックタック。  そういえば、あの娘は花が好きな娘だった。名をM子。僕は彼女の事が好きだった。だから僕は告白をしようと考えた。されど、恥ずかしさは拭っても拭いきれぬお年頃。なんとか告白をせずして告白をする方法はないかと考えた。そして翌日、僕は彼女にキク科のダリアを一輪渡す。彼女は不思…

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第2号◇組員自己紹介◇(近況報告)

まめたろう ……作品を描くくらいですから妄想がスキです。もしもこんな世界があったらなあ、と考えて絵に起こしたりします。山田組文芸誌第二号、バンザイです。 千秋明帆 ……書きながら、何年か前に読んだCoCのシナリオが頭に浮かんでました。あの世界観が好きでいつか書きたいと思っていたので、あの時感じた仄暗さを少しでも落とし込めてたらな。BGMに米津さん。締切はやぶるもの。 三角重雄 ……ついに節を屈してスマホを手にしました。確かに便利です。でも、私のようなタイプの人は、握るべきではなかったかも。 高平 九 ……創刊号を読んで驚きました。個性的で魅力あふれる作品ばかりだったからです。仲間でありライバルでもある同人達が次はどんな作品を出してくるかとっても楽しみです。  烏瓜老いさらばえて花の中

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NUVA     高平 九

 ぬばたまの色みな腐(くた)れ黒黒と明日もと願う君ならなくに 「なんだこりゃ。ひでえ歌だな」    編集長の鯖江が椅子の背もたれを軋らせて言った。新人編集者の黒木岬は編集長のデスクの前に立っていた。鯖江の端末のモニターには岬が送ったばかりの短歌が映っている。 「枕詞の『ぬばたまの』は『闇』にも『黒』にもかかってねえし、『腐(くた)れ』なんて言葉あんのか」 「『腐れ』は造語だと思います。『芥』の『くた』を動詞にしたんですね。色のすべては腐って黒くなってしまえ。明日もと願うあなたのせいではないのにという解釈でいいですかね」 「『色』を色即是空の色ととると、目に見えるものすべて腐って黒黒となってしまえ……か。気味の悪い歌だな。で、これがいったい何だって言うんだ」  鯖江はお気に入りの金色のボールペンでモニターを乱暴に叩きながら岬に尋ねた。 「祟るらしいんです」  編集長はボールペンを岬に向かって突きだした。そのボールペンはまだ若かった鯖江が社長賞をもらったときの記念品だそうだ。鯖江の人生唯一の勲章というところだろう。 「おめえよ。新人だからっていつまでも甘い顔はしねえぞ。ヨタ話を書きたけりゃ、よそに行きやがれ!」  鯖江には学生プロレスの悪役だったという噂があった。ずっとブラバンでフルートを吹いていた岬はこの手の野蛮人がとにかく苦手だ。こんな人がどうして繊細な短歌の雑誌『』月刊WAKA』の編集長なんだろう。 「橋場さんから『NUVA』…

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日本信者     まめたろう

其の一・ 平成三一年の四月一日は例年とは決定的に違っていた。従来の四月一日ならば異国の文化に毒された俗どもが嘘をつく、という極めてくだらない遊びごとにふけるのだが、今年の四月一日は誰もがそんな戯事には興じていなかった。 「それでは身につけている通信機器をこちらの箱に入れ、中でお待ちください」 流石の厳重体制。情報漏洩の余地もない。そして天井がひと回りもふた回りも高い部屋に入ると、真ん中にはこれまたひと回りもふた回りも大きな長机が対になって配置されている。艶やかな色目から察するに、材木はチーク材だろうか。そんな高級机を囲むのは、これまた豪華なメンバー。私は最敬礼の角度と言われる四十五度、やや五十度寄りの挨拶をし、中へと一歩踏み出す。各々、世間話に談笑しつつ時を待つも、感じる空気は重く、底の方では緊張感が泥のように流れていた。 手前左側からNHK会長・下田光一、日本新聞協会会長・白石輝、ノーベル賞受賞者京大教授 ・山本真司、最高裁判所長官・竹田光、一つ空いて作家・林貴美子。林先生は私に気がつくと気さくに挨拶をしてくれた。 「お久しぶり、間宮ちゃん」 以前、平安京を舞台にした恋愛小説『ちりぬるを』執筆の際、日本文学研究者の万葉集有識者として時代考証を担った事があった。 「間宮ちゃんも居てくれて、すごく気が楽になったわ」 「いえ、私もです。実は緊張のあまり一週間一睡もできてなかったので、七周読みました。万葉集」 「相変わらずのご様子。そういえば添削も原稿が全ページ赤字だらけにな…

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射干玉鳥が告げる夏    千秋明帆

 もう初夏だというのに、指先が冷えていけないね。君に触れるのをためらってしまう。  そう言って指先を擦り合わせると、冷えますか、と君の声。柔らかく降るこの声が、やはり僕は好きだ。出会った頃よりはしゃがれて少し低くなったかもしれないけれど、変わらず好きだ。変わらず、僕の中で鈴が転がる。 「今日は、お散歩に行こうかと思っていたのですけど、やめたほうがいいかしら。」  ああ、ため息交じりにそんなこと言って。 「やめないよ。日が高くなれば暖かいから大丈夫。」 「そうですか? なら、今日は少し厚手のシャツにしますね。」  今度は、ゆっくりの吐息。どうやら散歩には行けそうだ。  君が服を取りに行ったので、ゆっくり起き上がる。布団のぬくもりから抜ければ、ややひんやりとした空気が足首を撫でた。なかなか体温が上がらなくなってきた僕の貴重な末端の温度が奪われていく。熱を逃がさないようにしながら、布団の近くにあるはずの靴下を探して履いた。あとは、ズボンくらいなら君を待たずとも良いだろう。  体をやや丸めながら寝巻を脱いでごそごそ着替えていると、ふと鼻を掠める甘い香りがした。甘く、高雅な香り。薫風が運ぶ初夏の香りだ。 ざっと、一瞬の心象風景。見上げる君と、一面の淡い紫。  そういえば。匂いが人の記憶を揺さぶるなんていう話があったけれど、確かにそうかもしれない。この香りは、いつだって君のものだ。 「あら、もう着替えたんですか。」  起き上がると、君の声は下から包み込んでくる。 「ねえ、今日は公園に…

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組員自己紹介

高平 九  五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする  この「詠み人知らず」の歌は「これ知ってる?いい歌よねえ」と人から人へと伝えられ、やがて古今集に収められるまで有名になりました。  ちっぽけな私の大きな夢です。 まめたろう  僕は高校2年生です。今回、尊敬する方々と共にこの文藝誌に参加できて凄く嬉しいです。  ドキドキでした。少しでも追いつけるように、えっさほいさ頑張ります。  もっともっと強くなります。アチョー!  ありがとうございます。 千秋明帆  いっけな~い☆遅刻、遅刻!  私、千秋明帆!どこにでもいる平凡な物書き!  でも書きたいとこだけ書く癖が直らなくて、もう大変!  次回、「繋ぎ目不自然問題は考えるな、感じろ」  お楽しみに! 三角重雄 孤独とは長い付き合いだ。若い頃、本の虫だった私のもとに、孤独はやって来て住み着いた。  そいつと口を聞くくらいならと、私は、ますます本の虫になった。ところが本によって孤独は太った。  今では私の孤独は、私の心から出たがって叫ぶ。「ペンをとれ」と。やれやれ。

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巻頭言

 組長の命令で、山田組季刊文芸部誌創刊号の巻頭言を書いております、わたくし、組員の(筆名)三角重雄と申します。他の組員は(筆名)千秋明帆、まめたろう、高平九です。  さて、ここでクイズです。実はこのメンバーの中に、組長がいます。それは誰でしょう。  もとい。巻頭言を書いている途中でした。今のは巻頭言の巻頭言と思って忘れてください。  我々組員はあるシマに出入りするある稼業が縁となってつながりました。我々には掟がひとつあります。「仲間は絶対に…」、その先は勝手につけたして口に出して言ってみてください。ただし、その言葉次第で何か起こっても責任はとれません。  もとい。掟は組長が語った次の言葉です。「俺たちは年齢も立場も全然違うが、小説創作という一点において平等だ」。だからなんだ?と思った人は口に出して言ってみてください。ただし、その言葉次第で、以下同文。  という訳で、山田組文芸部誌です。あっ、読者の皆さん、ひとつお願いがあります。どうか、山田組という名前に引かないでください。怖がらずに読んでくださいね。毎号、テーマを決めて組員は短編を書きます。面白そうでしょう?こわくありせん。  さて、初回のテーマは「ぬばたま」です。  続いて、二回目のひとつのお願いです。ぜひ四人の作品を最後まで読んでください。そのくもりのない目で読み、感じた心のままに、1位から4位まで決めていただき、https://novela.at.webry.info/のコメント欄に書き…

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